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東京高等裁判所 平成12年(ネ)2849号 判決

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人A(以下「控訴人A」という。)に対し、四六四万円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人は、控訴人Bに対し、一二八万六〇五八円及びこれに対する平成九年五月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件事案の概要は、後記二のとおり加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから(なお、原判決一五頁六行目の「実態上は、」及び末行の「本件保険の」をそれぞれ削る。)、これを引用する。

二  当審において控訴人らが追加補充した主張

1  本件交通事故傷害保険契約及び本件自動車保険契約の解除の要件について

保険者が重複契約に係る他の傷害保険契約の存在あるいは被保険自動車に係る事故歴及び旧契約の存在についての告知義務違反を理由として各保険契約を解除することが許されるのは、その不告知が不正な保険金取得の目的に出たものであるなどその不告知を理由として保険契約を解除することが社会通念上公正かつ妥当と解される場合に限られるものと解すべきである。

2  本件交通事故傷害保険契約の締結に際しての控訴人Aの告知内容について

控訴人Aは、本件交通事故傷害保険契約の締結に際し、被控訴人の保険代理店を営む上原に対し、日新火災の普通傷害保険契約以外の保険契約についても告知しており、上原はその存在を承知していた。

3  他の傷害保険契約の不告知に関する控訴人Aの故意又は重大な過失の不存在について

仮に控訴人Aが本件交通事故傷害保険契約の締結に際し他の傷害保険契約の存在を告知しなかったとしても、控訴人Aは、少なくとも日新火災の普通傷害保険契約の存在は告知したこと、本件交通事故傷害保険契約申込書(乙五)は上原が作成しているから、上原としては他の傷害保険契約の有無につき控訴人Aに質問すべきであるのにこれを怠ったこと、控訴人Aは、上原に対し、他の傷害保険契約に加入しているが更に本件交通事故傷害保険契約の締結が可能であるか否かを質問しているところからも明らかなように、他の傷害保険契約の存在を殊更隠す意図は有していなかったから、上原からその点の質問を受ければ告知したはずであることなどの諸点に照らせば、控訴人Aは、故意又は重大な過失によって、保険契約申込書の記載事項である他の傷害保険契約の存在について、知っている事実を告げなかったり、不実のことを告げたりしたものではないというべきである。

4  本件交通事故傷害保険契約の締結に際しての被控訴人の過失について

商法六四四条一項には、「保険契約ノ当時保険契約者カ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ重要ナル事実ヲ告ケス又ハ重要ナル事項ニ付キ不実ノ事ヲ告ケタルトキハ保険者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但保険者カ其事実ヲ知リ又ハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス」と定められている。ところで、上原は、控訴人Aが他の傷害保険契約に加入していることを知っていたにもかかわらず、日新火災の傷害保険契約のみを本件交通事故傷害保険契約の申込書に記載した。また、仮に上原において控訴人Aが日新火災以外の傷害保険契約に加入していることを知らなかったとしても、前記3の諸点に照らせば、被控訴人は過失によって右の事実を知らなかったものである。したがって、被控訴人が本件交通事故傷害保険契約を解除することは許されない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの被控訴人に対する本件各請求は、いずれも理由がないものと判断する。

その理由は、次のとおり補正し、かつ、当審において控訴人らが追加補充した主張にかんがみ次項のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第三 争点に対する判断」(四項まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二〇頁末行の「この保険」から二一頁二行目末尾までを次のように改める。

「この保険に加入することを勧めたところ、控訴人Aは、本件交通事故傷害保険契約に加入する意思を表明し、右同日の夕方控訴人A方で右契約の申込書を作成すること及びその作成は控訴人Aの妻に委ねていることなどを上原に伝えた。そこで、上原は、控訴人Aの要請に従い、右同日の夕方、控訴人A方を訪れ、控訴人Aの妻及び娘と面会し、同人らに本件交通事故傷害保険契約申込書の申込人欄に控訴人Aの住所及び氏名などを記入してもらった上、同人らの了解の下に右申込書の告知事項欄に控訴人Aから告知されていたとおり日新火災の普通傷害保険契約の存在を記入した。なお、上原は、控訴人Aとの従前の交渉の過程で他の傷害保険契約が存在する場合には保険料が高額となることなどを告げていたが、控訴人Aから加入している他の傷害保険契約は日新火災の普通傷害保険契約であるとしか告げられていなかったため、それ以外には控訴人Aが加入している傷害保険契約は存在しないものと信じていたので、右申込書の作成に際して、控訴人A又はその妻子に対してそれ以外の重複保険契約の有無の確認はしなかった。」

2  原判決二二頁四行目の「他の傷害保険」を「他の傷害保険契約(同一の被保険者についての他の傷害保険契約)の有無」に改める。

3  原判決二三頁二行目と六行目の各「傷害保険」をいずれも「他の現存する傷害保険契約」に改める。

4  原判決二七頁三行目から四行目にかけての「本件自動車保険は」を「本件自動車保険契約の締結行為は」に、四行目の「原告A」を「控訴人A」に、五行目から六行目にかけての「旧契約」を「前契約」に、九行目の「前契約を確認する欄があり」を「前契約(旧契約、複数所有新規の他の自動車の契約)を確認する欄が設けられ、他の現存契約(被保険自動車を同一とする他の自動車保険契約又は共済契約)があるか否か、旧契約(過去一三箇月以内に満期を迎えたか、解約・解除された契約又は中断証明書が発行された契約)があるか否か等についての事実を申告すべきものとして」にそれぞれ改め、同行目の「申込書」の次に「(乙四)」を加える。

5  原判決三〇頁四行目の「横田外科」の次に「(横田病院を指していると認められる。以下同じ。)」を加え、五行目から六行目にかけての「一切ない。このため」を「一切ないため、」に、九行目の「受傷にについて」を「受傷について」にそれぞれ改め、三一頁一行目の「平成八年」の前に「控訴人Aは」を、三四頁七行目の「ついて」の前に「に」をそれぞれ加える。

6  原判決三五頁二行目から三六頁九行目までを次のように改める。

「1(一) 本件交通事故傷害保険契約の傷害保険普通保険約款(以下「本件傷害保険普通保険約款」という。)第四章「保険契約者または被保険者の義務」一一条一項には、保険契約申込書の記載事項に関する告知義務について、「保険契約締結の際、保険契約者または被保険者が故意または重大な過失によって、保険契約申込書の記載事項について、当会社に知っている事実を告げなかったときまたは不実のことを告げたときは、当会社は、書面により保険証券記載の保険契約者の住所にあてた通知をもって、この保険契約を解除することができます。」旨が定められている。そして、本件交通事故傷害保険契約申込書(乙五)の告知事項中には同一の被保険者についての他の傷害保険契約の存在を記載する欄があり、現存契約の全部を告知すべきところ、控訴人Aが日新火災以外の保険契約の存在についてその告知義務を怠ったことは、前認定のとおりである。

ところで、本件傷害保険普通保険約款第四章一一条一項及び本件交通事故傷害保険契約申込書の書式をもって、交通事故傷害保険契約を締結する際に、同一の被保険者について他の傷害保険契約の有無及びこれが存在する場合にその内容を告知すべきことを定めている趣旨は、重複保険の締結は一般に保険料の負担の増大を伴うものであり、ややもするとその保険契約者又は被保険者(以下「傷害保険契約者等」という。)による保険事故の招致の危険の増大にもつながりかねないおそれがあるのみならず、保険事故の発生を奇貨とする過大な保険金請求を誘発するおそれもあることにかんがみ、保険者としては社会通念上相当と認められる限界を超えるような重複保険の成立を避けるため、他保険契約の存在を知る必要があること、また、保険事故が発生した場合の事故の原因や態様等の調査、保険者の責任の有無、範囲の決定等について、他の保険者と協同して行う利益を確保するためにも、他の傷害保険契約の存在を知ることが有効かつ適切であることによるものと考えられる。したがって、重複保険の告知義務を課した本件傷害保険普通保険約款第四章一一条一項及び本件交通事故傷害保険契約申込書の記載事項の書式には合理的な理由があり、その定め自体を違法なものとはいうことはできない。

しかしながら、他の傷害保険契約が存在する場合であっても、常に当然に前記のようなおそれを招致するものとはいえない上、故意又は重大な過失による保険事故の招致については保険者は免責されることが認められ(商法六四一条)、本件傷害保険普通保険約款にあっては、契約当事者の知、不知を問わず、約款によらない旨の特段の合意がない限り、これが当然に契約内容となって当事者を拘束するものであることをも併せ考えれば、傷害保険契約者等に他の傷害保険契約の存在について告知義務違反がある場合(傷害保険契約者等が他の傷害保険契約の存在を知り、かつ、それが告知事項であることを認識していたか又は重大な過失により告知事項であることを認識しなかった場合)に、これを理由として、直ちに保険者が当該保険契約を解除することができるものと解するのは相当ではなく、被保険者又は保険金受取人の請求について不正な保証金取得を企図した疑いがあるなど保険者がその保険契約を解除するにつき正当な事由があると認められるときに限り、保険者は、右告知義務違反を理由として保険契約を解除することができるものと解するのが相当である。

(二) 本件自動車保険契約の自動車総合保険普通保険約款(以下「本件自動車総合保険普通保険約款」という。)の第六章「一般条項」三条一項には、保険契約申込書の記載事項に関する告知義務について、「当会社は、保険契約締結の当時、保険契約者、記名被保険者またはこれらの者の代理人が、故意または重大な過失によって保険申込書の記載事項について知っている事実を告げなかったとき、または不実のことを告げたときは、保険証券記載の保険契約者の住所にあてての書面による通知をもって、この保険契約を解除することができます。」旨が定められている。そして、本件自動車保険契約申込書(乙四)の告知事項中には前契約の存在及び事故歴等を記載する欄があり、その両者について告知すべき事項がありながら、控訴人らがその告知義務を怠ったことは、前認定のとおりである。

ところで、本件自動車総合保険普通保険約款第六章三条一項及び本件自動車保険契約申込書の書式をもって、被保険自動車を同一とする他の現存契約の有無並びにこれがない場合に旧契約の内容及び事故歴等を告知すべきことを定めている趣旨は、前者については本件傷害保険普通保険約款の場合と同様であり、また、後者については保険者に契約の申込みに応ずべきか否かを検討させる重要な判断材料であることによるものと考えられる。したがって、右事項の告知義務を課した本件自動車総合保険普通保険約款第六章三条一項及び本件自動車保険契約申込書の記載事項の書式には合理的な理由があり、その定め自体を違法なものとはいうことはできない。

そして、右約款所定の自動車保険契約者等に右後者の旧契約の内容及び事故歴等について告知義務違反がある場合(自動車保険契約者等が旧契約の内容及び事故歴等について、それが告知事項であることを認識していたか又は重大な過失により告知事項であることを認識しなかった場合)であっても、自動車総合保険契約については、交通事故による一般第三者の被害の救済という社会的要請は重要であり、いったん締結された任意保険契約については保険者においても相応の責任を持つべきであるから、右告知義務違反を理由として、直ちに保険者が当該保険契約を解除することができるものと解するのは相当ではなく、被保険者又は保険金受取人の請求について不正な保険金取得を企図した疑いがあるなど保険者がその保険契約を解除するにつき正当な事由があると認められるときに限り、保険者は、右告知義務違反を理由として保険契約を解除することができるものと解するのが相当である。」

7  原判決三八頁末行の「原告A」から三九頁一行目末尾までを「本件交通事故傷害保険契約の被保険者である控訴人Aの請求については、不正な保険金取得を企図した疑いがあることが明らかであるから、被控訴人のした右契約の解除は有効なものというべきである。」に改める。

8  原判決四〇頁三行目の「原告らの」から四行目末尾までを「本件自動車保険契約の被保険者である控訴人A及び同Bの請求については、いずれも不正な保険金取得を企図した疑いがあることが明らかであるから、被控訴人のした右契約の解除は有効なものというべきである。」に改める。

二  当審において控訴人らが追加補充した主張について、右一に引用した原判決の判断に加え、以下のとおり判断する。

1  本件交通事故傷害保険契約及び本件自動車保険契約の解除の要件について

これについては、前記一で補正の上引用した原判決の「第三 争点に対する判断」中の四1に説示のとおりであり、これと異なる控訴人らの主張は採用することができない。

2  本件交通事故傷害保険契約の締結に際しての控訴人Aの告知内容について

控訴人Aは、本件交通事故傷害保険契約の締結に際し、被控訴人の保険代理店を営む上原に対し、日新火災の普通傷害保険契約以外の保険契約についても告知している旨を主張する。

しかしながら、前記一で補正の上引用した原判決の「第三 争点に対する判断」中の一1に認定のとおり、上原が本件交通事故傷害保険契約の締結に際して控訴人Aから告知された他の傷害保険契約は、日新火災の普通傷害保険契約のみであったことが明らかである。

したがって、控訴人Aの前記主張は、採用することができない。

3  他の傷害保険契約の不告知に関する控訴人Aの故意又は重大な過失の不存在について

控訴人Aは、仮に控訴人Aが本件交通事故傷害保険契約の締結に際し他の傷害保険契約の存在を告知しなかったとしても、故意又は重大な過失によって、保険契約申込書の記載事項である他の傷害保険契約の存在について、知っている事実を告げなかったり、不実のことを告げたりしてはいない旨を主張する。

しかしながら、前記一で補正の上引用した原判決の「第三 争点に対する判断」中の一1に認定の本件交通事故傷害保険契約の締結に至る経緯、同一2に認定の右契約の締結の際に現存した他の傷害保険契約及び控訴人Aが告知を怠った傷害保険契約の種類と内容などにかんがみれば、控訴人Aは、重大な過失によって、保険契約申込書の記載事項である他の傷害保険契約の存在について、知っている事実を告げなかったものということができる。

したがって、控訴人Aの前記主張は、採用することができない。

4  本件交通事故傷害保険契約の締結に際しての被控訴人の過失について

控訴人Aは、上原は控訴人Aが他の傷害保険契約に加入している事実を知っていたか、そうではないとしても、上原は過失によって右の事実を知らなかったから、被控訴人は本件交通事故傷害保険契約を解除することが許されない旨を主張する。

しかしながら、前記一で補正の上引用した原判決の「第三 争点に対する判断」中の一1(二)に認定のとおり、上原は、控訴人Aから日新火災の普通傷害保険契約以外の保険契約については告知を受けていなかったため、控訴人Aが加入している他の傷害保険契約はないものと信じて、控訴人Aから本件交通事故傷害保険契約申込書の作成を委ねられていた控訴人Aの妻子の了解の下に本件交通事故傷害保険契約申込書の告知事項欄に所定の事項を記入したことに照らせば、上原は、控訴人Aが日新火災以外の傷害保険契約に加入していることを知らなかったし、右事実を知らなかったことについて過失があったということはできない。

したがって、控訴人Aの前記主張は、採用することができない。

三  以上によれば、控訴人らの本件各請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。

よって、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川善則 裁判官 井上繁規 裁判官 松並重雄)

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